CARTÉ
「アート&サイエンス」をコンセプトにプロダクトデザイン、広告、店舗デザイン、プロモーションなどのクリエイティブディレクションを担当。ニューヨークの現代美術家マーク・コスタビを起用する
1985年の事務所開設以来もっとも印象に残る仕事にカルテ(CARTE)という化粧品ブランドがあります。30年以上前、1988年に始まったプロジェクトです。自分にとってもクライアントにとってもその後のブランドビジネスの道しるべとなった仕事だと思っています。当時それまで未開拓だった百貨店ブランドを創設したいというコーセーからの依頼を受け、今までとはまったく違う切り口が必要だと考えました。本格的な化粧品ブランドの構築は初めての経験でしたが加えてプロダクト、広告、店舗に至るいっさいのクリエイティブディレクションを任せるという言葉をいただき、思い切ってニューヨークの現代美術家マーク・コスタビの起用を決めました。女性の表情、まなざしや肌質に肉迫する化粧品ビジュアルの逆手をゆき、無機的な人体像、表情が何もない顔に勝負を賭けてみようと思いました。コーセーは今ほどではないにしても当時すでに大企業でした。なぜ30歳代の経験も少ない自分に企業の命運をかけた新プロジェクトを託してもらえたのかは謎でしたがまずまず期待に沿う成果が出せたと思っています。このプロジェクトは1980年代後半のバブル経済にも後押しされました。思っていた以上の予算が投入され気合が入りましたし何度もニューヨークを往復し素晴らしい経験を積むこともできました。デザインは消費ではない、デザインは投資であってブランド構築は企業の資産価値を高めるという考え方は時代の空気にもピッタリでした。ブランディングという概念が広まるのは1990年のデビッド・アーカー博士の著書以降ですので当時としてはそれなりに新しい提案だったのです。このプロジェクトをきっかけにLORAC(1994年)、AWAKE(1995年)、VINCENT LONGO NEW YORK(1996年)、STEPHEN KNOLL NEW YORK(2002年)、AQMW(2010年)など、次々と新しい化粧品ブランドの構築を手掛けることができました。STEPHEN KNOLL NEW YORKは20年、AQMW (DECORTE)は10年以上のロングセラー・ブランドとして現在(2022年)も継続してクリエイティブディレクションを担当しています。
Profile「印象に残る仕事」 (官浪辰夫 コメント) から転載